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<幕内観戦記>

9月20日に第136回本場所が幕を開けた。今場所は先場所優勝した若ノ嶋が新横綱として迎える場所。先場所ともにカド番で負け越した鬼ヶ嶽と照の王が関脇に陥落したことで大関が空位となり、鞍ノ城と若ノ嶋が東西の横綱大関に座り、関脇が鬼ヶ嶽、照の王の他に春ノ翔、若剣、美空富士の5人。小結が支那虎、白閃光、千代ノ虎の3人という番付となった。

今場所の見どころは、新横綱若ノ嶋が横綱としてどういった相撲を見せるのか? 横綱鞍ノ城の巻き返しは? 先場所終盤戦の失速で大関昇進を逸した春ノ翔、美空富士の大関獲りなるか? 鬼ヶ嶽と照の王の大関復帰は? 新入幕の大神楽、磯光の実力は? と盛りだくさん。

また、今場所からこれまで理事長代行だった友砂理事長代行が日本紙相撲協会の第8代理事長に就任。新たに江戸川親方が理事に就き、新執行部体制がスタートすることになった。初日恒例の協会ご挨拶では、「初日にあたり一言ご挨拶申し上げます。今場所より理事長を務めることになりました友砂でございます。以後お見知りおき頂きたく、宜しくお願い申し上げます。本日めでたく第136回本場所(平成26年秋場所)を開催する運びとなりました。…」と自ら理事長就任の挨拶を行なった。

20日は初日~3日目までを行ない、早くも初日に横綱若ノ嶋、2日目に横綱鞍ノ城に土がつき、3連勝したのは関脇の春ノ翔と美空富士、平幕の角武蔵、獅子桜、大神楽、磯光の6人だった。

初日の注目は若ノ嶋が新横綱として初めて相撲を取る小結支那虎との一番。初めての土俵入りは無難にこなしたものの緊張の様子がこちらまで伝わってきた。呼び出しの声に促されるように土俵に上がるが表情は堅い。「横綱は初日で堅くなっていますかね?」と香具山親方。確かにいつもとちょっと違った様子。両者が腰を落として立つが、いつもの出足が見られない若ノ嶋。支那虎に押し込まれると体勢を崩し、支那虎の叩きにばったりと手をついた。「あ~!ちょっと堅かったな~!」と鹿賀乃戸親方。新横綱の初日は黒星スタートとなった。

続く2日目は初顔の小結千代ノ虎戦。「なんか白星を上げられるのかどうか不安になるよなぁ!このまま一つも勝てずに引退なんてのは嫌だよな!もしそうなったら前代未聞だよな!」と横綱の師匠としての苦しい胸の内を語る錦風親方。若ノ嶋らしい鋭い出足を見せたいところだったが、踏み込みが甘く、千代ノ虎にやや押し込まれるところをいなして寄り切るという本来の相撲ではなかったが、何とか横綱としての初白星をあげた。「相撲内容はともかく、まずはホッとしたってところだね!」と鹿賀乃戸親方から声を掛けられた。「3日目こそ本来の相撲を!」と臨んだ阿古耶川戦だったが、寄り切りで勝ったものの本来の出足とは程遠く不安を残す3日間となった。

「2人しかいない横綱大関として、ここは協会の威信にかけて下位に対してその力を誇示しないといけない」と若ノ嶋とともに誓い合った鞍ノ城。130回から初の連覇を果たしながら、ここ4場所優勝から遠ざかっている。休場明けの先場所は6勝5敗に終わったが、九十九親方の場所前予想では優勝候補の本命にあげられた。初日は新小結白閃光を無難に下して好スタートを切ったが、2日目に支那虎の出足に圧倒されて向正面に寄り切られた。支那虎は初日、2日目と両横綱を撃破して早くも今場所の殊勲賞候補に挙がった。支那虎に敗れて、「どうも序盤で負ける癖があるんだよな~!」と嘆く勝間田親方。しかし、3日目は初顔の磯昇に対して、得意の左差しからの寄りという横綱相撲で序盤を2勝1敗とした。

今場所8番勝てば大関復帰の鬼ヶ嶽と照の王の元両大関。しかし、まったく精彩を欠く相撲で、鬼ヶ嶽は3連敗、照の王も1勝2敗と苦しいスタートとなった。「この面子の中で8勝するのは厳しいけど、何とか復帰してもらいたいけどなぁ~!」と鹿賀乃戸親方。ここから巻き返して奇跡の大関復帰なるか、4日目以降の相撲に注目したい。

今場所、5人となった関脇陣の中で、新大関昇進を狙う春ノ翔と美空富士がともに3連勝と絶好のスタートを切った。春ノ翔はこれまでの対戦で分のいい阿古耶川、磯昇、水晶嶽に勝っての3連勝。美空富士は先場所、剥離骨折していたことが判明したが、その間に体重を増やすことに努めたとのことで、重量感のある前へ出る寄り身が冴えて水晶嶽、大江錦、玄武岩を圧倒した。先場所まさかの失速で大関獲りを逸したが、今場所は2人同時昇進となるような勢いのある3日間の相撲だった。

桐壺部屋とともに今一番勢いのある磯ノ海部屋だが、先場所千秋楽直後に親方自身が右足を骨折。部屋での療養を余儀なくされ国技館へ足を運ぶことは難しいのではと思われたが、「弟子の相撲を自分の目で確かめないと!」と若い衆に付き添われて松葉杖をつきながら国技館入りをした。親方のこの思いに応えたかった上位陣だったが、小結に昇進した白閃光を筆頭に前頭上位の磯昇、水晶嶽、玄武岩の4人の成績は2勝10敗と散々。しかし、新入幕の大神楽、磯光がともに3連勝として親方を大いに喜ばせた。「上の奴らにはもうちょっとしっかりしてもらいたいけど、大神楽と磯光は今場所期待だなぁ!」と足の痛みに顔をゆがめる場面もあったが、新入幕の2人の相撲に満足の様子だった。

 

<十両観戦記>

今場所の十両は、先場所の大神楽のような突出した力士はいないため、混戦模様となりそう。その中でも実力者の春ノ富士を筆頭に、先々場所優勝の鹿富士、4力士を抱える錦風勢、それに新十両でひと暴れしそうな虎風、剣灘あたりでの優勝争いが展開されていきそうだ。

三日目まで終わって土つかずは鬼無双、瑞豊、栃谷、初戸の四人。幕内復帰へ向けて気合の入る鬼無双は元関脇の意地を見せ好発進。2日目の波士頓戦はのど輪攻めをしのいで、逆に押し返す力強い相撲を見せた。今場所の上位陣の顔ぶれを見ると、当時幕内で対戦していた相手も多く白星を積み重ねるにはチャンスである。そろそろ幕内に復帰しておかないとこのままズルズルと十両に居座ってしまうことにもなりかねない。瑞豊も同様で初顔の超刃との対戦は左差しを許したもののつき腹で辛勝。この後も白星を重ねて終盤まで優勝争いに加わるような形に持っていければ、3場所ぶりの幕内も見えてくるだろう。錦風部屋では、栃谷と初戸が好スタートを切った。栃谷は初日に先場所敗れている鹿富士に対し左からうまく攻め、二日目の大ノ湖戦もともに寄り切りで下した。先場所は終盤に失速して6勝止まりに終わったが、今場所は若ノ嶋の新横綱の場所ということもあり、部屋としても盛り上がりをみせる中いつも以上に気合が入っていることだろう。そして初戸の方は前回からまわしをグレー色に一新。それがしっくりきたようで動きも良く、初日に難敵の剣灘を引き落としで退けた。初日からの三連勝は新十両時の場所と一緒だが、その時は四日目から連敗を喫したのでまずは手堅く勝ち越しが目先の目標となる。錦風親方も横綱土俵入りの太刀持ちと露払いを行く行くはこの二人でと密かに思い描いているのかも…。今場所の新十両は兄弟部屋の虎風と剣灘。これまでの圧倒的な強さで駆け上がってきた数々の桐壺部屋力士とは違い、育成会、幕下で着実に番付を上げてきた虎風。しこ名も鋼牙から改名しての初日、剣持との一番は立ち合いすぐに左を差す早い相撲で向正面に寄り切りで完勝。3日目こそ立ち合いが合わずに取り直しの末磯ノ龍に不本意な形で敗れたが、勝った相撲を見る限り勝ち越しは無難にクリアしそう。麻縄部屋から初の関取となった剣灘は二日目こそ三鷹を圧倒したが初戸と犬雷には引き落とされて黒星。まわしを取れれば剣灘の相撲になるはずだが、とりあえずは四日目以降白星を先行させる形に持ち込みたい。今場所の優勝争いの最右翼と見られた春ノ富士は一勝二敗とやや出遅れた。初日に関脇経験者の左乃沢を撃破し連勝は当然かと思われたが筆頭の二人足元を掬われた。しかし終盤には間違いなく帳尻を合わせ優勝争いに加わってくるだろうが、まずは勝ち越しが先決だ。もう一人の注目はやはり鹿富士。新十両で優勝した勢いを今場所こそ見せてほしかったが、どうしたことか三連敗のスタート。三日目は大ノ湖に万全の左差しで寄って出たところを土俵際で逆転の上手投げ、誰もが勝ったと思った惜しい一番にも「これがあるんだよなぁ」と鹿賀乃戸親方が危惧していた結果となってしまった。悩める場所となりそうである。

 

<幕下観戦記>

幕下は三日目を終って勝ちっぱなしは連覇を狙う嶺峰、江戸の若と江戸の菊の江戸川勢、新幕下の紫藤、山口の5人となった。

二場所連続優勝を目指す嶺峰は鬼大海と対戦。あまり目立たないが嶺峰は第133回場所序二段の二日目から16連勝中でほぼ一年間負け知らず。四場所ぶりの十両復帰をかける鬼大海との対戦は嶺峰が立合いから出足よく前に出て寄り切りで破り三連勝とした。「あとは全勝優勝で十両昇進だ~」と一人心の中で呟く勝間田親方だった。ともに二連勝で好スタートを切り江戸川親方を喜ばせた江戸の若と江戸の菊。江若は鹿乃海と対戦してまわしを取らせず突き落としで下し勝ち越しを決めた。西七枚目ではあるが全勝すれば一気の昇進もあるのでこの勢いを繋げていきたいところ。江菊は強敵の虎の国との一番。実力的には虎の国だろうが、その予想を上回る厳しい攻めを見せた江菊がのど輪を入れて圧倒。「おー、勝ったよ。」と嬉しさの中にも一番驚いていたのが江戸川親方だったのは言うまでもない。初日に富嶽を破って勢いに乗る紫藤は今や、元学生横綱の面影が全くなくなった伊沢を難なく寄り切って力の差を見せた。四日目は江戸の菊が相手かどうかは微妙だが桐壺部屋にまた一人刺客が加わったことは間違いないだろう。付け出しの山口が大青木を破り幕下の地位を確保。香具山親方も「よかった~、勝ち越せたー。」と安堵の表情を見せた。山口とともに付け出しで期待された九十九の那由多だったが三連敗となり幕下からの陥落が決定的となり廃業が決まった。この日参加できなかった九十九親方も期待をかけて送り込んだはずだったが力を発揮できずに去ることになるが、この敗戦を糧に更にスカウトにも熱が入ることだろう。

<三段目観戦記>
三段目では東筆頭の磯ノ嵐が電幕に差し勝って三連勝。早くも幕下昇進を確定させた。敗れた電幕もまだ昇進の可能性は十分、鹿の砲、桃乃河あたりとの争いになってくるだろうが、とりあえず四日目には勝ち越しを決めておきたいところ。英部屋では活躍目覚ましい英山田が同門の鹿三村を下し三連勝。取組前は「どっちかといえば鹿三村に勝たせたいな~」と言っていた鹿賀乃戸親方だったが英山田の圧勝となった。
まだ気は早いかもしれないが、幕下昇進となれば各段一場所通過での偉業となる。そして英森田も江戸黒田を寄り切って同じく三連勝、英浜田も2勝1敗と白星を先行させた。また、このところいま一つ伸び悩んでいた?虹大龍と、ここまで左差しだけで上がってきた冬牡丹らが順調に星を重ねてきて残り二日楽しみな存在になってきた。

<序二段観戦記>
序二段は全勝が三人となった。相変わらず他を寄せ付けない圧倒的な取り口を見せている磯日ノ丸。今場所も断トツの優勝候補で、九十九親方とともに欠席の磯ノ海親方だったが居てもいなくても関係なし。左百騎頭を全く問題にせず寄り倒しで退け序の口からの連勝を8に伸ばした。そして四日目に対戦が組まれそうなのが英岩田。初日の江坂に続き同部屋の長居をも下し三連勝。序の口では負けているので何とか先場所の借りを返したいところ。友砂部屋の太刀鳳は鷲ノ海を土俵下まで吹っ飛ばす豪快な相撲を見せた。残り二日、磯日ノ丸の独走を許さないためにも英岩田、太刀鳳には意地をみせてほしいところだ。

<序の口観戦記>
序の口は友砂の市ノ花と丸の二人が揃って敗れ、全勝は十勝桜、剣竜、魁電、明ノ城の四人となった。長らく続いた山桜部屋の百騎頭軍団も一段落か、新たに北海道地名&桜シリーズに突入の模様。その中で十勝桜が市ノ花に左を差される苦しい展開から逆転の押し倒しで勝って三連勝。かたやもう一人の日高桜は白星をあげることなく惜しくも退会。今場所の本命となりそうな麻縄部屋の剣竜と岩風部屋の魁電がともに寄り切りでストレートでの勝ち越しを決めた。早くも高い潜在能力を見せている二人だが桐壺勢との対戦も今から待ち遠しいところだ。春日根では明ノ城が北横岳を押し倒しで破り優勝争いに残った。この活躍に「久々に出したのに三連勝するんだから大したもんだよな」と感心の桐壺親方。確かに育成会を席巻する磯ノ海の力士に勝つのだから流石といったところ。そして初日に北横岳に勝った隆の城も佐世保を寄り切って勝ち越しまであと一勝とした。春日根親方が練馬国技館に顔を見せる日も近そうだ。

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